Haruinu
Music
Showko Nakamura
“春犬バンド"のリーダー中村尚子のプロジェクト第一弾。 「初めてなのに懐かしい」「音の映像詩」と形容されるピアニストで、これまで3枚のアルバムをリリースしている自己のプロジェクト=“春犬バンド"のリーダーにして、アレンジャー、FM番組のパーソナリティーもこなす中村尚子。『新緑の中に雨が降っている』という小説のタイトルにも似合いそうな本作は、「孤独な自分を大切にしながら」「八幡平の大自然の中で直感した」「音が鳴ること、鳴らないことに大した違いは無い! 」という彼女自身の実体験を音にしたピアノとドラムのデュオ作品で、彼女自身の記念すべきプロジェクト第一弾! パートナーとして選んだのは、ジャズだけでなくジャンルを超えて数々の大物ミュージシャンとも共演する他、コンポーザーやプロデューサーとしても活躍する古澤良治郎。ピアノとドラムというデュオは珍しいが、風景や景色が見えてくるような心の琴線に触れる全8曲のサウンドは、自分を見つめ直すきっかけを与えてくれるようだ。(The Walker's 加瀬正之)
かなり気持ちの良いピアノだ。
日常感覚で、優しく、柔らかく心の中をマッサージしてくれるかのよう。
ココロが洗われるピアノ。
こう書くとチープな表現になるがが、本当にそのとおりなのだ。
特にタイトル曲の《新緑の中に雨が降っている》が素晴らしい。
ドラムとのデュオと、ピアノソロの2種類のバージョンが収録されているが、なんといっても古澤良治郎とのドラムデュオのバージョンが良い。
基本はシンプルなモチーフの繰り返しだが、侘び寂びを強く感じるフレーズゆえ、単調さはまったく感じられない。
まるで、山中の古寺の中で雨宿りをしているような気分。
古澤良治郎のドラムが、不規則に瓦を叩く雨だれを連想させ、まるで情景が音で描き出されているかのようだ。
虫の鳴き声を左脳で鑑賞することが出来、そこに風流や趣きを感じることが出来る日本人的感性の持ち主であれば、きっとこの不規則な乱れ打ちには、えもいえぬ趣きを感じられるに違いない。
のみならず、雨や土の香り、ひいてはヒンヤリとした触感までもが、このピアノとドラムのデュオ演奏から呼び覚まされる。
つまり、五感を直撃&触発する音楽なのだ。
タイトル曲のほかには、《地下鉄にて》が個人的愛聴曲。
これもピアノとドラムのデュオで、リズムはオーソドックスな8ビートだ。
通常ならば、このようなタイプの演奏にはベースの存在が不可欠と感じるのだが、ピアノの低音が効いているためか、ピアノとドラムがあれば、もうそれでもう十分、あとは何もいらない!と思わせる音だ。
オーソドックスながらも、素晴らしい8ビートは特筆に値する。
拍と拍の間の僅かな時間の中に様々な情報と、悠久の時間が封じ込められているかのよう。ドラムの「打」と「打」の間に様々な情景が見え隠れする。
なんでもないような平凡なリズムパターンに感じるかもしれないが、こういう含みのある8ビートはなかなか叩けるものではないと思う。
ちなみに、このアルバムのリーダー・中村尚子さんには、先日私の番組にゲスト出演していただいたのだが、この曲の「地下鉄」は何線なのかという私の質問に対して、意外な返答が返ってきた。
鑑賞の邪魔になる情報なのかもしれないので、この曲が示す路線名は伏せておくことにしよう(笑)。
彼女のピアノは「初めてなのに懐かしい」と形容されているが、この指摘は正しいと思う。
たとえば、タイトル曲をはじめ、このアルバムに収録されているナンバーのどれもが、どこかで聴いたことがあるような懐かしさを覚えるのだ。
初めて聴く旋律、響きでもあるにもかかわらず。
過度にノスタルジックというわけでもなく、露骨に日本人の郷愁をくすぐるようなスケールや旋律を出すわけでもなく。
この「不思議懐かしさ」はきっと癖になるに違いない。
高野 雲 (Jazz ライター)
「ひかりのくに」や「Peace」など、希望に満ち溢れてそうな名前。
その名で括られている音の色は、余りに哀しく感じた。
まるで自分には、そんな場所に行けないことが判っているように。
憧れすぎた先に待っている、きっと自分はそこにたどり着けないと、
そう思うことしか許されないような。
自分には、このような解釈しか出来なかった。
ここまで哀しくなるから聴きたくないと思わせる表現力が素晴らしい。
なぜか、スカイクロラのラストが眼前に浮かんだ。
今、「対話-ダイアログ-」という曲を聴いてる。
なんで、こんなに涙が出そうになっているんだろう。
(Amazon CDレビュー 我妻様)